作家の室井佑月氏は新年から「手抜き除染」の記事を読んで、「なぜか『相田みつを』さんの『にんげんだもの』という言葉を思い出している」という。

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 1月4日、朝日新聞朝刊のトップ記事は、「東京電力福島第一原発周辺の除染作業で、取り除いた土や枝葉、洗浄に使った水の一部を現場周辺の川などに捨てる『手抜き除染』が横行していることが、朝日新聞の取材でわかった」というものだった。

 作業員いわく、「計測地点周辺だけきれいにすればいいと指示された」だって。

 ってことは、汚染物質のたかが移動に、この国は6500億円もの金をつぎ込むのね。だったら、その金を地元の人々に直接渡したほうが良いんではないかとあたしは思う。

 どうせ国は国民に本当のことを教えてくれないし、どうせ国民の一人一人の命や健康なんてつまんないことだと考えているんだろうし(今回、計測地点だけきれいにしろって指示されていたってことからしてもわかるじゃん)、だったらできる限りの金を渡してくれて「自分で考えろ」っていってくれたほうが親切というものだ。

 相田みつをさんの「にんげんだもの」。どういう内容の詩だったか気になって、きちんと調べてみた。

――つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの くるしいことだってあるさ 人間だもの まようときだってあるさ 凡夫だもの あやまちだってあるよ おれだもの――

 なんかやっぱり、あたしはこのニュースにピッタリの詩だと思う。絶対に安全だっていってた原発で事故が起こった、にんげんだもの。事故の収束上手くいかない、人間だもの。放射能の被害が出たらどうしよう、凡夫だもの(超人じゃないって意味)。

 ただ、相田さんは、そんな弱くておろかな人間だけど、反省して前を向いて行こうと、詩の中で訴えかけている。この国の一部の指導者の心根とは、真逆。

「あやまちだってあるよ おれだもの」の次は「まあ、いいか。被害を受けるのおれじゃないもの。おれだけ良ければそれでいっか」。そんなもんなんだろ?

週刊朝日 2013年1月25日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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