さて、どこの温泉に行こうか。“温泉の達人”として知られる温泉療法研究家の野口冬人さん(79)に、脳卒中、生活習慣病などに効果がある東日本の名湯を聞いた。

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「肘折(ひじおり)温泉」(山梨県)は開湯の歴史が807年にまでさかのぼる伝統ある温泉郷です。効能は多種多様ですが、なかでも神経痛、関節痛、リウマチなどの関節関係の不具合や、創傷や火傷、慢性皮膚病などの皮膚関係に特に効果があるといわれています。

「肘折」という名前の由来にも、ひじを折った老僧がこの地の湯に浸かったところ、たちまち傷が癒えたことから命名されたなどといった説があります。

 効能とともに肘折温泉の名物になっているのが、朝市です。冬場を除く毎日、土産屋や旅館の軒先に、採れたての野菜や山菜、果物を売る市が立ちます。これを楽しみに訪れる湯治客も少なくないでしょう。出羽三山の主峰、月山の麓の銅山川沿いにある静かな温泉郷に、にぎやかな朝市の光景が彩りを添えています。

 奥秩父の名峰、金峰山や瑞牆(みずがき)山など2千メートル級の山々に囲まれた、本谷川の谷あいに湧く「増富(ますとみ)温泉」(山梨県)は、宿数9の小さな温泉郷です。しかし、その効能は豊かで、戦国時代の武将・武田信玄の隠し湯のひとつとも言われています。

 特に糖尿病に対する効能は、よく知られています。浴用だけでなく飲用も可能なので、生活習慣病をはじめとする内臓系の疾患を持つ人は、ぜひ飲んでみることを勧めます。ただし、鉄分を含んでいるので苦みと酸味があります。コップ一杯をゆっくり飲むのが効果的。湯気の吸引は、呼吸器系の疾患にも高い効果を上げています。また、ラジウムが各所に出ているところから、入浴しなくても、この地にいるだけで、各種疾患に効果があるといわれています。

週刊朝日 2013年1月18日号