笹子トンネルでの救出作業は夜を徹して行われた(12月3日早朝) (c)朝日新聞社 @@写禁
笹子トンネルでの救出作業は夜を徹して行われた(12月3日早朝) (c)朝日新聞社 @@写禁

 12月2日、中央自動車道の笹子トンネルで天井板崩落事故が起きた。週刊朝日の連載で半年前に、このような事故が起こることを予言していたニュースキャスターの辛坊治郎氏。氏はそこに日本の「失敗の本質」をみたという。

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 事故が起きた理由は単純だ。それは、道路の維持管理に適切な費用が使われていなかったからだ。
 しかし建設費の償還が終わって、莫大な通行料収入のある中央自動車道になぜ、充分な維持管理費用が投じられなかったのか。それは、「償還の終わった高速道路から得られる収益を原資に、新しい高速道路を建設する」というシステムゆえだ。
 本来、維持管理のために使われるべき高速料金が、「しか通らない」と揶揄される高速道路建設に流用され、新たな高速道路は、たとえ熊しか通らなくても、毎年の維持管理費用を発生させる。新たな道路を造れば造るほど、新規の維持管理費が膨れ上がり、必然的に既存道路1キロあたりの維持管理費が希薄化する。無理な戦線拡大で、兵站(へいたん)確保に困難をきたして自壊した日本軍と似てはいないだろうか。

 なぜこんなことが続くのか? それは高速道路会社の経営者や政治家が、新しく道路を造ることで一部の人々の喝采を浴びる現実があるからだ。
 もし、優れた経営者や政治家が、高速道路をきちんと管理して、今回のトンネル事故を防いでいたら、どんな評価を得られていたか? 実は、世間の評価は、この場合「ゼロ」だ。トンネルの天井は落下しないのが当たり前だからだ。橋は落ちないのが当たり前、道路に穴があかなくて当たり前、信号は壊れないのが当たり前。本当は、そんな「当たり前」こそ、きちんと評価される社会でなくてはいけないと強く思う。

(週刊朝日2012年12月21日号「甘辛ジャーナル」からの抜粋)

週刊朝日 2012年12月21日号