直木賞作家の伊集院静さんは元CMディレクター。27歳のとき、当時無名モデルだった夏目雅子さんを化粧品広告に起用し、これが大ヒット。夏目さんは一気にスターダムを駆け上がった。伊集院さんの離婚後、二人は結婚するが、翌年には夏目さんが白血病を発症した。仕事を休んで看病をした当時をこう振り返る。

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 前向きで明るい性格の彼女は、つらい抗がん剤治療にもよく耐えました。当時は、アメリカの病院に行けば日本より治る可能性が高いということでしたが、それには何千万円もかかり、その金が工面できない自分の力不足が情けなかった。彼女の死後、もう二度と金で揺さぶられる生き方をしないと、心に決めました。

 彼女が生前、私の小説を映画監督の篠田正浩さんや演出家の久世光彦さんに読んでもらい、「あの人は小説家になるべきだと思うんです」と言っていたことも、私はまったく知らなかった。亡くなったあとは、もう小説どころじゃない。途方に暮れてすべてわけがわからなくなり、生きることも死ぬこともどうでもよくなった。金に対する憤りもあり、とてつもない借金をしてギャンブルと酒の日々を送りました。

 そんな私を救ってくれたのは、先輩や友人たちです。浴びるほど飲んで重度のアルコール依存症になり、入院させられるところを先輩プロデューサーが宮古島へ連れていってくれた。

 漫画家の黒鉄ヒロシさんは、私の小説の挿絵を描いてくれた縁で知り合い、その後も「小説を書いたら」と何度も勧められましたが応えられなかった。田舎でくすぶっていた私に、黒鉄さんが「上京してきなさい」と絵入りの心のこもった手紙をくれました。そして紹介されたのが作家の色川武大さんでした。

週刊朝日 2012年12月14日号