女優・石原さとみさんの初舞台は「奇跡の人」のヘレン・ケラー役だったが、当時は演技の加減がわからず、ケガばかりしていたそうだ。その後、つかこうへい氏の「幕末純情伝」に出演。2010年に亡くなったつか氏の思い出を、作家の林真理子氏との対談で明かした。
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石原:舞台ってケガをするものなんだという印象を持って、舞台に抵抗を感じてしまったんです。だけど、そんなときに、つかこうへいさんに声をかけていただいたんです。つかさんにお会いしたときに私、「こういうのはイヤです」ってはっきり言ってしまって、すごいバトルをした記憶があります。
林:「幕末純情伝」ですよね。
石原:はい。沖田総司の役を演じたときに。
林:つかさんって、そのときの旬の可愛いアイドルをいじめ抜いて、そのあと大きな女優さんにしていくというのが好きだったみたいね。内田有紀さんとか、牧瀬里穂さんとか、石田ひかりさんとか、たしか黒木メイサさんも…。石原さんは、つかさんのお芝居は、どうでしたか。シゴかれた?
石原:シゴかれるという言葉が正しいかどうかわからないですけど、ものすごく愛されました。つかさんのおかげで「舞台って楽しいんだ」ということも知りましたし。つかさんがおっしゃった言葉をおうむ返しのように繰り返していく、口立て稽古というのがつかさんのやり方なんですけど。
林:暗記力が悪い人はどうしたらいいんですか。
石原:やっていけないと思いますね。
林:怒られて脱落していくわけね。
石原:覚えられない人は、「5分やるから覚えてこい」って外に出されていましたね。
林:私、絶対ダメだな。今聞いた電話番号も暗唱できないもん(笑)。
石原:ふだんそうでも、つかさんの前に立ったら勝手に覚えますよ。尋常じゃないぐらいの圧と緊張感とで。つかさんが稽古場に入ってきた瞬間に、みんな姿勢がよくなりますもん(笑)。本当に体育会系の稽古場ですよ。
※週刊朝日 2012年12月7日号