11月10日、肺炎による心不全のため92歳で死去した女優の森光子さん。親交のあった人たちが、その驚くほどの気配りと優しさを明らかにした。

 公私ともに交流が深く、舞台で共演を重ねた東山紀之さん(46)は、「師匠でもあり母でもあった」と語り、訃報に接して「僕の人生を照らし続けてくれた光が消えてしまいました」。

 東山さんが1999年のNHK大河ドラマ「元禄繚乱」への出演が決まったとき、森さんはその台本を自分で取り寄せ、浅野内匠頭役の東山さんのせりふをすべて自ら朗読してテープに 吹き込み、渡したという。東山さんがせりふを覚えるのに役立ててほしいという思いからだった。

「本郷菊富士ホテル」など、森さんの新作舞台の多くを手がけた演出家の栗山民也さん(59)も驚いたことがある。自身が演出するすべての公演で、通し稽古の日になると、いつも森さんから、何十人ものスタッフ全員分の弁当が届くのだ。

「年に10以上の公演があるのに、どこでどう日程を調べられていたのか、きちんと送られてくるのです。中身も僕の好物が入るなど、ユニークなものでした」

 森さんは大正デモクラシーの最中、京のど真ん中、花街の料亭旅館に生まれた。母は元芸妓。自身も終生「京都が大好き」と語っていた。周りへのこまやかな気配りと優しさは、生粋の「京女」の血がそうさせたのかもしれない。

週刊朝日 2012年11月30日号