東京・渋谷の片隅にある“奇跡の焼き鳥屋”、「鳥重」。夕方6時から約2時間ごとに客が3回転する完全予約制で、「日本一予約の取れない焼き鳥屋」とも言われる。その名店が61年の歴史に幕を下ろそうとしている(残念ながら、最終日の12月29日まで予約はいっぱい)。

 常連客には、イチローさん、石橋貴明さん、秋元康さんなどなど華やかな面々が並ぶ。なかでも、「一番男らしい」と店のおかみ・東山とし子さんがほれ込んでいるのが赤井英和さんだ。赤井さんの予約がある日に訪ねて、「鳥重」の魅力を聞いた。

「初めて来たのは、映画『どついたるねん』を撮って4年後だから、もう20年くらい前になりますね。もちろんおいしくて安いんですけど、おかみさんの人柄で何十倍もおいしく感じます。お客さんのこと全部覚えてらっしゃるので、誰にとっても『鳥重』さんに座っている2時間は幸せな時間になるんです。前にね、『俺、あんたのお母さんのときから来てるんや」っておかみさんに言う、ごっつい傲慢(ごうまん)な人がいて、『こいつ、つまみだしたろか』って思ったことがあったんですよ。ここは、本当に『食べさせていただく』という気持ちで来店せなあかん。ほんまに感謝しながら鳥を食べられるとこっていうのは、世界広しといえども『鳥重』だけやないですか。言うてみれば、おかみさんの強烈なファンの集まる場でもあるんちゃうかな」

週刊朝日 2012年11月23日号