鳥取連続不審死 最終弁論で思わず笑い堪えるシーンも

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 鳥取連続不審死事件で、2件の強盗殺人罪などで起訴された上田(うえた)美由紀被告(38)に11月5日、死刑が求刑された。その翌6日に行われた弁護側からの最終弁論は、裁判員が笑いを堪えるようなシーンもあったという、異様なものだった。傍聴したコラムニスト、北原みのり氏は、次のように振り返る。

*  *  *
 11月6日、第19回公判。弁護側の最終弁論が始まった。

「法廷で明らかに嘘をついた人がいる」

 扇情的で注意を惹く言葉で、弁護人は勢いよく語り始めた。

 初公判で弁護側は、美由紀と同居していた元自動車セールスマンの男性A氏を真犯人と主張した。ところがこの日はそのことに触れず、A氏と警察官が嘘をついている、と言い切り、弁論を始めた。

 その「嘘」とは、例えばこういうものだ。

 矢部和実さん(当時47)が、海で水死したとされる日。A氏は、ずぶ濡れの美由紀に、「着替えを買ってきて」と言われ、近くの「ファッションセンターしまむら」で服を買う。A氏は美由紀に3Lサイズを頼まれたのに、Lサイズのキャミソールを買った。「これはおかしい!」と弁護人は言った。「(実際に着る人を見ずに)Lサイズでも大丈夫、と言う店員は、おかしい!」。弁護人は右の拳を上下に振りながら力説する。「そんな店員がこの世にいるでしょうか!」と、怒りを露(あらわ)に、という感じで声を張り上げた。「客だったら普通怒るでしょう!」とも。まるでクレーマーである。

 矢部さんが海で水死したのは、2009年の4月だ。4月の鳥取は、まだ肌寒い。もし美由紀が男性を海で殺害したのなら、びしょ濡れになるだろう。寒くて着替えも必要だろう。しまむらにも行くだろう。が、そもそもしまむらで服を買ったこと自体が、嘘だ、と弁護人は主張した。そして唐突に、“標語”を読み上げた。

「しまむらなくして、ずぶ濡れなし。ずぶ濡れなくして、殺害なし!」

…思わず、心の中で復唱してしまう。「しまむらなくして、ずぶ濡れなし!」。裁判員の中には口元を歪めている人がいた。笑いを堪えているようにも見える。弁護人に勢いはある。熱意も感じる。でも、「ずぶ濡れなくして、殺害なし!」って…。いったい、この裁判で、私たちは何を、分かった、のだろうか。

週刊朝日 2012年11月16日号より抜粋

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