牛のレバーを生で食べると食中毒を起こすリスクがある。原発を稼働させても、させなくてもそれぞれにリスクがある。生物学者の池田清彦教授は権力が唱える「リスク論」には注意が必要であると話す。

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 どんな行為にも多少のリスクはある。すべてのリスクを避けて生活することは不可能である。自転車を運転しても、酒を飲んでも、タバコを吸っても、大麻を吸っても、多少のリスクはある。日本では無許可の大麻所持は違法であるが、後はとりあえず合法である。大麻は酒やタバコと比較して社会的なリスクが低いことは今や世界の常識であるのに不思議な話だ。

 問題はリスクの有無ではなくリスクを含むメリットとデメリットの比較である。電力は原発以外でも作れるが、原発の大事故はチャラにする手段がない。原発をより安全で安価な発電方式に切り換えるのが最も合理的な選択肢であることは自明であろう。レバ刺しはそれを食べたい人の欲望を無視してまで禁止するメリットはないが、原発はそれで金儲けしたい人の欲望を制限しても禁止するメリットは大きいのだ。

週刊朝日 2012年11月23日号