小説家カポーティの世界、パリの街角、花が舞う装画…銅版画家・山本容子が描く世界は、「日本」を感じさせない。山本容子の名前を知らない人が作品を見たら、「どこの国の版画家?」と疑問に思うような開放感があるからだ。その山本が、日本の古都「京都」をテーマにした銅版画33点を収録した画集を発表した。どうして今、京都を描いたのか。

「京都の画集を出したいって、編集者に言われたから(笑い)。でも、最初はやりたくなくて」

 京都市立芸術大学で青春時代を過ごし、その後も京都精華大学の客員教授をしている関係から何度も京都に滞在している山本。それでも京都に挑むには勇気が必要だったという。

「京都はプロフェッショナルが集まる街。ちょこちょこっとひっかいた程度の知識では立ち向かえない」

 京都の老舗には、「一見さんお断り」の札が出ていなくても、「この店をよく知らない人は入らないでおくれやす」と主張しているような緊張感がある。

「お店に対する尊敬、知識を持つ。それさえきちんとあれば、老舗の人たちは、こちらの要求をくみとったものを出してくれます。でもそういう体験ができるかどうかは、あくまでも『その人次第』」

 画集では、八坂神社やイノダコーヒなど、ガイドブックにも載っているおなじみの名所や名店が出てくる。にもかかわらず、明治時代のような懐かしい雰囲気と、まだ見ぬ未来の世界のような新しさの、相反する二つの世界を併せ持った不思議な魅力にあふれている。

「この本を通して、新しい京都、自分だけの京都を見つけてもらえたらうれしいですね」

週刊朝日 2012年11月16日号