増え続ける認知症。なかでも3大認知症のひとつ、レビー小体型認知症の罹患者数の勢いが止まらない。症状が多彩なうえ、正しい診断がつきにくく、治療法も多岐にわたる、医師にとっても患者にとっても「難しい」認知症だ。

「みんなに昼ごはんを出さないの? 部下が8人も来てるじゃない」

 都内在住の加畑裕美子さん(当時52)は、10年前、同居する80代の父親の言葉に愕然とした。

 父親の部屋をのぞくと、椅子や段ボールなどが8つ、テレビの前に並べてある。しかし、人の姿はどこにもない…。

 これがレビー小体型認知症の主な症状、「ないものが見える」幻視だ。

 裕美子さんはかかりつけ医に相談し、大病院の神経内科に連れていった。診断結果は脳血管性の認知症。血流をよくする薬を飲んだが、夜になると塀を乗り越えたり、鳥に餌をやると言ってティッシュをまいたりと、奇行は止まらない。

 同じ病院で、今度はパーキンソン病だと言われた。だが処方された薬を飲むと、ヨダレを垂らし、動けなくなる廃人状態に。不安と過労の中、ケアマネジャーの紹介で都内の神経内科クリニックに行って、ようやく病名がわかったのだ。

「それレビーだね、と父の歩く姿を見てすぐに医師が言ったんです。最初の症状から2年も経っていました」

 なぜ医師が見抜けない状況が起きるのか。

「古い学説がまかり通っているのが問題なんです」。レビー小体型認知症の発見者であるメディカルケアコート・クリニック(横浜市)の小阪憲司院長はそう指摘する。

「レビー小体型認知症に現れるレビー小体(αシヌクレインというたんぱく質)は、100年も前にドイツのレビー教授がパーキンソン病の患者の脳幹で見つけたもの。でも脳幹に現れても大脳皮質には現れないと60年以上も考えられてきたのです」

週刊朝日 2012年11月16日号