終(つい)の棲家(すみか)を考えるとき、多くの人が一度は検討する「高齢者ホーム」。だが、ひと口に高齢者ホームといっても、その内容は千差万別だ。選び方を間違えれば、人生の締めくくりを悲惨な状況で迎えることにもなりかねない。

 大阪市で一人暮らしをしていた加藤達夫さん(仮名・82歳)は4年前、自宅で転倒し大腿(だいたい)部を骨折。重度の介護を要する「要介護度4」になり、一人では暮らせなくなった。近くに40代の息子と娘がそれぞれ暮らしていたが、同居して介護するのは難しかったため、急きょ介護付き有料老人ホームに入居することになった。

 だが入居費用が安かったこのホームは職員の人手が少なく、ナースコールを押してもすぐに職員が来ない。加藤さんの服薬の管理も「家族でやってほしい」と言われ、介護の負担は大きかった。

 さらに、加藤さんにとってつらかったのは、自由に外出できなくなったことだ。加藤さんはそれまで、毎朝喫茶店にモーニングを食べに行くのが日課だったが、このホームでは職員が外出に付き添うサービスがなかった。朝起きてからずっと玄関のいすに座り、家族が来るのを心待ちにする毎日。加藤さんは口を開けば「家に帰りたい」と訴えていた。

「職員が少ないなど、安いホームには安いなりの理由があります。要介護状態になって急いでホームを選び、失敗してしまうケースは後を絶ちません」

 シニアの暮らし研究所(大阪市中央区)の岡本弘子さんはこう指摘する。加藤さんはその後、岡本さんの紹介で別のホームに住み替え、今では「家に帰りたい」と言うこともなくなったという。

 加藤さんのような失敗をしないためには、どうしたらいいのだろうか。

「書類を見せない、説明をしないといったホームは近年減ってきましたが、サービスについてはホームによって大きく異なります。見学時に、入居者への対応や館内の状況をしっかり見ることが大切です」(岡本さん)

 意外にも職員が「なんでもやります」と答えるホームは要注意だという。

「要望に応えられないことは、できないときちんと説明するホームが信頼できます。たとえば看護態勢が不十分なのに、医療行為が必要な人を受け入れてしまっているホームなども注意が必要です」(同)

週刊朝日 2012年11月9日号