「長崎は今日も雨だった」などのヒット曲で知られる歌手の前川清さんは、直立不動で歌う姿が印象的だ。「クール・ファイブ」のメンバーとして長崎から20歳のころ上京。そして、ある出来事がきっかけで、「直立不動」が誕生したという。

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 あのころは、30過ぎに見られました。クール・ファイブのメンバーのうち3人は5、6歳上で、リーダー(内山田洋)はひと回りも上。そのせいもあってか、「年、ごまかしてんだろ?」とよく言われました。

 直立不動で歌うのは、テレビに出るようになって、仕方なくああなったんです。

 もともとクール・ファイブはジャズバンドですから、みんな楽器を弾いていました。ところが、テレビに出るときはマイクはおれ用の1本と、コーラス用の1本だけ。おまけに、楽器をつなぐと配線に時間がかかるから、楽器は演奏させてもらえない。どうしたらいいかわからなくて棒立ちでいたら、ディレクターさんから「動けよ、絵にならない!」と怒られ、ルルル~とコーラスに合わせて動いたら「やめろ、動くな!」って。どっちなんだよ、と思いましたが、相当ひどい動きだったんでしょうね。

 思い返せば、自分はずっと突っ立ったまま歌っていました。リズムをとろうとしてもできない。動くと歌がダメになる。踊りながら歌う人はすごいですよね。

週刊朝日 2012年11月2日号