野田佳彦首相は8月に「近いうちに国民に信を問う」と解散を“口約”しておきながら、それをいまだ実行していない。首相が約束をほごにした背景を、ジャーナリストの田原総一朗氏は次のように分析する。

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 なぜ自公両党は早く解散せよと野田首相に怒りを込めて要求し、民主党は谷垣禎一前総裁との約束をほごにしてまで総選挙の先延ばしを図るのか。

 私は、野田首相が党役員人事で輿石東幹事長を留任させたとき、総選挙を先延ばしにするつもりなのだなと捉えていた。

 元々「来夏の衆参ダブル選挙でいい」と公言していた輿石幹事長は、野田首相の「近いうち解散」とは相反する存在だった。輿石幹事長は「このまま総選挙に突入すれば、民主党は大敗する。そして当然、野党に転落する。その時点で野田首相は代表を辞任しなければならない」と説いた。

 だが、総選挙になれば民主党が敗れることは、野田首相ももちろんわかっていた。いくつかのメディアの内部調査では、今秋に選挙になれば、民主党の獲得議席は100議席前後にとどまり、自民党は200議席前後を獲得すると予想されていた。

 野田首相は「消費増税に政治生命を賭ける」と繰り返し強調していて、その消費増税法が成立したのだから、次期衆院選で敗れてもやむなしと覚悟を決めていた。

 それに対して輿石幹事長は、「年が変わり、来春の選挙になれば状況が変わる。ダブル選をやれば衆参とも勝つ可能性がある」と熱心に説いた。こうした輿石幹事長の進言に、野田首相は乗ったのだ。

週刊朝日 2012年11月2日号