作家の室井佑月氏は先日、新聞社からの取材で「死にたくなるような出来事」に遭遇したという。

*  *  *

 死にたくなるような出来事があった。

 自民党の総裁選で安倍さんが総裁になり、そのことについてM新聞から取材の電話があったのだ。取材の時間合わせをし、1時間半ぐらい話をし、翌日ゲラのチェックまでして、最後に記者にいわれた言葉は、

「デスクがこれじゃ駄目だって。ほかの人の意見と被ってしまうんで。室井さんにはもっと女っぽい、主婦目線のコメントをお願いしたいんですが」

 またかよ。以前、週刊誌でもおなじようなことがあった。たしか野田政権誕生でコメントを求められて、最後の最後に記者がそういってきたんだ。どういうことか意味がわからずに訊ねると、「たとえば、野田さんが夫だったらとか、彼氏だったらとか」。

 震災後のことだよ。呆れたね。はじめからコメントの趣向をそういってくれたなら、「女を馬鹿にするのと同じようなことはちょっと…」と丁重にお断りしたのに。

 いつも後からいい出す。ほかにコメントを貰いにいっている人は男の人だからという理由で、女には馬鹿な発言をさせるのが使命とでも思っているかのごとく。なんか意地悪したい気分になり、「女だからそういうコメントでというのは納得できません。そういったデスクに取材をしたいので、連絡をくださいませんか」。

 そう記者に告げておいた。まあ、絶対に電話なんてかかってこないけど。

週刊朝日 2012年10月19日号

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら