福島原発事故から1年半、日本は脱原発の道筋を見いだせないでいる。かたやドイツでは、事故からわずか3カ月あまりの昨年6月末、2022年までに国内17基の原発をすべて閉鎖する方針を決めた。この違いは何なのか。そのヒントを求めて、「黒い森」と共生するバーデン・ヴュルテンベルク州の人々の脱原発への道のりを、ジャーナリストの邨野継雄氏が辿った。

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 2011年3月27日にドイツで行われた州議会選挙で環境政党である「90年連合・緑の党(緑の党)」が躍進し、与野党が逆転した。アンゲラ・メルケル連邦首相が属する連立与党などの得票率を大きく上回ったのだ。メルケル首相が「敗因は福島原発」と語ったように、この“緑の風”を加速させたのは、ドイツから1万キロ離れた日本で起きた福島第一原子力発電所の「レベル7」の過酷事故だった。

 緑の党の党員でバーデン・ヴュルテンベルク州議会議員ヴォルフガング・ラウフェルダー(41)は、州議会でエネルギー改革・原子力発電担当の部会に所属している。結党当初から脱原発を掲げてきた緑の党の党員として、日頃から原発推進派と頻繁に接触する立場にあり、原発事故にはことさら敏感だった。

「福島事故のレベルが日を追うごとに上がっていくのを見ていて確信したのは、原発は危険だと言い続けてきた我々の主張は正しいということでした。トーデン(東京電力)の発表は疑わしく、日本政府が開示する情報も信頼できない。チェルノブイリのときと、情報の出方がよく似ていました。事故のコントロールができそうもなく、尋常な状態ではないことは明らかに見てとれました」

 ラウフェルダーは、「さらに重大なポイントは、この事故が日本で起きたことだ」と続けた。「チェルノブイリ事故では、ソ連(当時)の技術的な不安定さが批判の的になりました。けれども日本は、ドイツと並んで世界的に技術力が評価されている国です。日独ともに、安全基準の厳しさは、世界に類を見ません。その日本が事故を起こすのなら、ドイツでも起き得ることだと、誰もが思ったんです」

 事実、ドイツのメディアの多くでは〈あの日本で事故が起きた〉という論調が際立ち、いかに技術大国であろうと、技術に完全はないという認識を示した。

週刊朝日 2012年10月12日号