自民党安倍晋三新総裁は「タカ派」で知られる。

 2007年3月、従軍慰安婦への旧日本軍の関与について謝罪した「河野談話」に触れ、「強制性を裏付けるものはなかった。定義が変わったことを前提に考えなければ」と官邸で記者団に語り、近隣諸国の批判にさらされた。米国でも人権問題として取り上げられ、翌4月の訪米では「当時の慰安婦の方々に人間として心から同情するし、そういう状態に置かれたことに対し、日本の首相として大変申し訳ないと思っている」と、なぜかブッシュ大統領に謝罪する始末に。「体調悪化」で総理の座を投げ出したのは、その5カ月後である。

 その後、音沙汰のなかった安倍氏だが、5年のときをへて、この総裁選では過去を忘れたかのように声高に叫んだ。

「(従軍慰安婦問題について)強制性を証明するものがなかったというのは安倍政権で閣議決定した。強制性があるという誤解を解くべく、新たな談話を出す必要がある!」(出馬表明会見で)

 そして、意気盛んな弁舌は、反日に沸く中国に向いた。

「尖閣をめぐり中国は野心を隠そうとしていない。真の意味で日本の安全を守るために憲法改正に挑んでいかないといけない!」(9月17日、名古屋の街頭演説で)
「中国に見下されてはいけない。政治のリーダーシップで日本は輝ける朝を迎える!」(同25日、新宿の街頭演説で)

 好戦モード全開の安倍氏だったが、新総裁就任後の会見では、転じてまた慎重に。

「国益がぶつかる場合もお互いを必要としているという認識で、戦略的にコントロールしていく考え方に今も変わりはない」

週刊朝日 2012年10月12日号