血液を全身へと送る大動脈が、動脈硬化などで瘤(こぶ)状に膨らむことを大動脈瘤という。胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤に分かれ、発症率は、両者を合わせて10万人あたり3人前後だという。自覚症状はないが、破裂して大出血を起こせば命にかかわることから「サイレントキラー」と呼ばれる。

 現在、国内で実施されている大動脈瘤の治療には、人工血管置換術とステントグラフト内挿術の二つがある。ステントグラフト内挿術は、胸部は2008年、腹部は07年に保険適用となった。日本ステントグラフト実施基準管理委員会によると、12年8月までに胸部では約6千人、腹部では約2万人がこの治療を受けている。

「ステントグラフト内挿術は、人工血管と金属製のバネの筒でできたステントグラフトを、瘤のある血管に医療用の細い管を用いて留置する治療です。胸やおなかを大きく開けることがないので、患者さんへの負担が軽いのが利点です。手術時間はもちろん、回復や退院までの期間も手術より短くなります」(慶応義塾大学病院・心臓血管外科兼任講師 川口聡医師)

 しかし、治療を高齢者などに限定している医療機関も少なくない。その理由について川口医師はこう述べる。

「ステントグラフト内挿術は、治療としてまだ.歴史が浅いため、耐久性なども含め長期的な有効性、安全性が十分に確認されていないところがあります。若い患者さんに対し、この治療をすすめることに疑問を持つ医師がいるのも事実です」

 一方、からだの負担が少ないからと治療を軽く考えている患者も少なからずいるようだ。川口医師は、そのような人に警鐘を鳴らす。

「大動脈癌は、がんや心臓病に匹敵する大きな病気です。正しい知識を持ち治療に挑み、退院後もしっかり診察を受けてほしい」

週刊朝日 2012年10月5日号