投資助言会社「フジマキ・ジャパン」代表で伝説のディーラーとも呼ばれた藤巻健史氏は、生前に義父から聞いた戦争時代の話が印象に残っている。それがマーケットにも当てはまると感じたからだ。

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 義父が乗っていた船がインドネシアのハルマヘラ島沖で米軍に撃沈されたとき、ぼーっとして潮に流された兵士たちはハルマヘラ島に流れ着き生き延び得たが、流れに逆らって必死に泳いだ兵士たちは体力を消耗して亡くなってしまったそうだ。

 その後、日本からの救援は来ず、ハルマヘラ島で数年間の自活を強いられたそうだが、米軍機の爆撃があると、皆、大喜びしたそうだ。海中に落ちた爆弾の衝撃で魚が死に、海面に浮き上がるからだという。ところが南の海のこと、浮き上がってくる魚には毒を持ったものも多かったようだ。その際、東大出身の「魚博士」の兵士の判断を信じた人は毒にあたって死に、漁師出身兵士の判断を信じた人は生き延びたそうだ。

 以上の話は、「マーケットにも当てはまるな~」と思って聞いていたがゆえに、20年以上たってもよく覚えている。

 まず「学者先生」vs.「漁師さん」の話だが、金融やマーケットも漁と同じく実学の世界だ。私が現役時代、市場予想に関しては、ヘッジファンドのオーナーたちなどリスクテーカー仲間の予想に耳を傾けていた理由である。

 また最近は日本株の投資スタンスについて聞かれることが多い。「日本株は欧米株の動きに完全に乗り遅れています。日本株は割安のままだと思いませんか? いま買うべきですか?」という質問である。海に投げ出されたときと同じように、潮に立ち向かうなどの無駄な抵抗をしないほうがいい。

 どうしても株を買いたいのなら、日本株よりは強い米国株を購入したほうがいいと私は思う。

※週刊朝日 2012年10月5日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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