2977億円......。これは、大阪市の生活保護費の額だ。受給者数は全国一で、中でも、労働者の街「あいりん地区」は突出しているという。ジャーナリストの今西憲之氏がこの街を含む西成区の実態を取材した。

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 西成の街を歩いていると、「介護」と書かれた看板が目立つ。保護日(生活保護の支給日)になると、西成区役所では、介護サービスの車に乗って受給者たちがやって来る光景を目にすることができる。

「正直、西成区の経済のかなりの部分が、生活保護と介護で潤っている。シャッター通りの商店街なんかも、介護の看板が次々にあがって、人が戻ってきて景気がええもんな」

 西成区内で手広く介護ビジネスを展開する男性は、こう話す。その構図はこうだ。

 生活保護の受給率が全国で最も高い大阪市だが、中でも西成区は突出していて、全世帯の3分の1超の約2万6千世帯にのぼる。その理由は、不況による仕事の激減に加え、「あいりん地区」を中心とした日雇い労働者たちの高齢化である。人口約12万人の西成区で、いまや65歳以上は3人に1人を超え、この割合も市内最高となっている。

 つまり、それだけ介護サービスを必要とする生活保護者の割合が高く、ニーズもあるのだ。ビジネスをするには、まず、介護を必要とする生活保護者を集めることからスタートする。

「西成で介護ビジネスが盛んなのは、生活保護という国営の"定収入"があるからですわ。生活保護受給者の多くが高齢で、病院の受診が欠かせない。腰痛などがあれば、整体などの治療院の需要もある。受給者を集め、送迎車を用意して、受診してもらう。生活保護と介護をベースに、医療の中をぐるぐるまわることで、ビジネスが拡大する――というわけです」

※週刊朝日 2012年10月5日号