伝統にとらわれない演奏スタイルで、クラシック界に新風を起こしてきたバイオリニスト・古澤巌さん。最近始めたヨットとサーフィンのためにわざわざ海辺に引っ越したそう。作家・林真理子さんとの対談で昨年から始めた変わったコンサートのスタイルについて話を聞いた。

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林:古澤さん、10月に世界遺産の野本宮大社で奉納コンサートをなさるんですって? ライフワークの一つとして、神社やお寺でコンサートをなさっているそうですね。熊野の奉納コンサートは境内でやるんですか。

古澤:そうです。「境内でやらせてください」と言って。

林:快くやらせてくれるんですか。

古澤 いちおう僕も、誰も知らないわけではない程度の演奏家になっていたから、よかったなという感じですよね。宮司さんからお許しをいただき、熊野の本宮大社のために書いた「煌きの大地へ」という曲を、今年出したアルバム(「想いの届く日」)に入れました。昨年、地元の和太鼓集団「熊野鬼城太鼓」と共演して生まれた曲です。

林:下世話な話ですが、「ギャラを払わなきゃいけないんじゃないか」とか、警戒されませんか。

古澤:お客さんにはチケットを1人2500円で売ります。それで50人でも100人でも来てくれたら、半分は神社やお寺に納めて、残りの半分を自分の交通費にするという。

林:でも、古澤さんほどの人が、その場で弾いてお金をもらうなんて、ふつうは考えないですよ。逆に無名な人ならコンサートなんてできないかもしれないけど。

古澤:逆に、もっと有名になったら、できないかもしれないですよ。僕、まだ売り出し中なんで。(笑)

※週刊朝日 2012年9月28日号