子宮や卵巣など下腹部のがんの摘出手術を受けた患者の25%以上、乳がんの摘出手術後は10%以上で発症するといわれているリンパ浮腫(ふしゅ)。しかし、リンパの知識を持つ医師は日本には少ない。日本リンパ学会理事長で信州大学医学部器官制御生理学教授の大橋俊夫医師に、リンパ浮腫治療の課題などについて聞いた。

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「リンパ」と聞くとマッサージやエステなどの美容法を連想する人も多いと思いますが、そのようなときに使われる言葉のリンパとリンパ浮腫を混同してはいけません。確かにリンパの流れをよくするマッサージを受けると、一時的にむくみが取れますし、リラクセーション効果も得ることもできます。しかし、エステなどのようなマッサージをリンパ浮腫の患者さんが受けると、病状を悪化させてしまう場合もあります。骨にまで異常が表れる患者さんも出始めているのが実情です。
 リンパ浮腫の診断と治療は複雑ですから、リンパ循環についての正しい知識が求められます。しかし医学部で扱う教科書の中には、リンパの解剖学や生理学についての項目が載っていないものすらあるのが現状です。リンパの専門家と呼べるほどの知識を持つ医師は、日本に少ないといえると思います。診断と治療のガイドラインが十分にできておらず、どの診断科目で診るのかがはっきりしていないことも問題です。最近は大病院にリンパ外来などが併設されていますが、病状を悪化させた患者さんが自ら調べ、専門医にかかるという例も少なくありません。
 残念ながら、乳がん、婦人科の子宮や卵巣のがんの摘出手術を受けると、高い確率でリンパ浮腫を発症します。だからこそ、がんの手術を受ける前からリンパ浮腫が起こることを前提に考えることが、医師も患者さんも必要です。

※週刊朝日 2012年9月21日号