ロシアのウラジオストクで9月5日から開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の裏で、ひそかに盛り上がった話題がある。日本とロシアの「犬外交」だ。

 発端は秋田県の佐竹敬久知事が、東日本大震災の支援のお礼などとして、「プーチン大統領に秋田犬を贈ろう!」と言い出したこと。これをロシア側も快諾し、秋田犬は7月28日に玄葉光一郎外相がソチでプーチン大統領と会談する前日、ロシア大統領府に引き渡された。

 4月下旬に生まれたこの秋田犬はメス。プーチン大統領直々に日本語で「ゆめ(夢)」と命名された。

 喜色満面のプーチン大統領もさっそく「お返しにシベリア猫を贈ります」と申し出た――と、ここまでは心温まる話だったが、その後、"ゆめ"にも思わぬ過酷な事態がこの猫を襲った。

 8月26日、「約束の猫」が、駐ロ大使と共に成田空港にやってきた。秋田県庁職員らが出迎えたが、ここで問題が……。なんと動物検疫の手続きが事前にされておらず、成田空港内の係留施設に180日間、閉じ込められる羽目になってしまったのだ。来年3月まで一歩も外に出られないのだという。

 もちろん8、9日のAPEC首脳会議に間に合うわけもなく、閣僚会議が始まった5日、ロシア関係メディアに「哀れなシベリアの猫」と報じられてしまった。

 農林水産省の動物衛生課の担当者はこう説明する。「狂犬病予防法に基づく措置で、180日という期間は狂犬病の潜伏期間をクリアするため。ロシアは狂犬病の発生がある国ですから、仕方ないのです」。

※週刊朝日 2012年9月21日号