自身の父を亡くし、遺産相続で揉めた経験から、ライターの朝山実氏は自分の財産の将来を考えて遺言書をつくってみることにした。「遺言書キット」を使って書いたものに専門家から助言をもらったところ、細かい指摘が多い一方で、意外なことも分かった。以下、朝山氏のリポートだ。

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 遺言書の完璧を期し、『磯野家の相続』(すばる舎)、『モメない相続』(朝日新書)の著者、弁護士で税理士資格も有する長谷川裕雅さんに助言をいただいた。

 思わぬところでチェックが入ったのが、「○○さんに遺贈します」と記していた遺贈者への敬称「さん」付けである。

「遺言は『特定性』に疑義を生じさせるようなことはしないようにしていくことが大切なんです。名前の最後が『さん』で終わる方もおられ、『さん』が名前の一部なのか敬称なのか、ややこしいときだってあります。たとえば、志村けんがお客さんに名前を尋ねるコントで、『あ、山田です』とこたえたのを受け、『アヤマダさんですね』と返すのに近いかもしれません」

 長谷川さんからクールに、ここはこうしたはうがいいですよ、と逐次、改良点が指摘されていく。けっこう細かい。もとの遺言書が朱色に染まっていく。正直、萎えかけていた。

「でも」と、長谷川さんが意外なことを口にされた。「自筆の遺言は素人の方が書くものなので、間違いはあるもの。逆に揉めない限り、多少のことは問題にはならないともいえます」。

 えっ!?

「たとえば、広告の裏紙に書いた遺言もOKです。ただ、そういうふうにラフにしていくと、ニセモノじゃないのかという疑義が生じかねない。真偽をめぐって争うことにもなりかねませんから、リスクは避けましょうということです」

※週刊朝日 2012年9月14日号