昨年4月、アップルが、スマートフォンやタブレット端末に使われている技術やデザインの特許をサムスンが侵害していると提訴した。その後、同様の裁判はドイツ、オランダ、オーストラリアなど世界10カ国、地域に広がり、訴訟件数は50件以上に及ぶ。

 8月24日、米国ではアップルに軍配が上がり、サムスンは10億5千万ドル(約830億円)の賠償を課せられた。同27日には、アップルはサムスンの携帯端末8機種の米国での販売差し止めを求める申請を出した。すでに、いくつかの国では、サムスンの一部製品の販売差し止めが確定している。

 これに対し、サムスンも昨年6月に「iPhone4」や「iPad2」などのアップル製品の米国輸入禁止を米国際貿易委員会に要請した。

 こうした両社の販売差し止め合戦が過熱すれば、「iPhone」やサムスンの「ギャラクシー」といった端末の一部が生産中止に追い込まれ、日本でも購入できなくなる恐れもある。

 もっとも、販売差し止めを求めても相手に与える損害は少ないとの見方もある。

「差し止めが認められても実行されるまでには数年かかる。その間に、対象となった端末は旧型モデルになっていて、急速なシェアの低下にはつながらないだろう」(ITジャーナリスト)

 にもかかわらず、アップルが執拗にサムスン製品の販売差し止めを求めるのはなぜか。

 アップル創業者のスティーブ・ジョブズは生前、こんな言葉を残している。「核戦争をする」。戦争の相手はグーグルと、同社が開発したOS「アンドロイド」を搭載したスマートフォンメーカー陣営で、その筆頭がサムスンだ。

「アップルの最大の目的は賠償金を得ることでも、販売差し止めによってわずかなシェアの拡大を図ることでもない。徹底的に相手を追い詰めることで、故スティーブ・ジョブズの遺志に従い、自社が開発したデザインや技術を他社から守ることです」(業界関係者)

 市場規模約17兆円といわれる世界のスマートフォン市場で覇権を争う両社の"戦争"は今後も続きそうだ。

※週刊朝日 2012年9月14日号