「隣人」の暴走が止まらない。丹羽字一郎・駐中国大使(73)の乗る車が白昼堂々と襲撃された前代未聞の事件。その背景には、「愛国無罪」の精神を教え込まれた中国の若者たちと、その愛国教育を進め、権力闘争の渦中でうごめく彼の国の実力者たちの姿が見え隠れする。

 一党独裁で厳しい秩序を敷こうとする中国共産党だが、その実、一枚岩ではない。中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏によれば、各地で起こっている学生の「反日デモ」も、実は中国政府に不満を持つ「反政府デモ」である場合が少なくないという。

 中国でビジネスマンとして働いた経験があり、『2014年、中国は崩壊する』(扶桑社新書)の著者でもある国会新聞社編集次長の宇田川敬介氏が提起するのは、ズバリ胡錦濤(フーチンタオ)派"主犯"説だ。

「胡錦濤国家主席(69)はこの事件に対する世間の評価によって、中国政府に対する国民の支持を見極めようとしたのではないか。そもそも、北京市内で10分以上もカーチェイスが続くこと自体がおかしい。大使の身に危険が及んだ時点で、犯人は公安当局に殺されてもおかしくありません。公安当局は今回の"計画"について知っていたはず。おかしいことばかりですが、それも胡錦濤かその側近の指揮によるものだとすれば理屈が通ります」

 いずれにしても、こうした説で共通するのは、襲撃事件には"中国指導部の意向"が反映されているという観測である。

 先の宮崎氏は、「1931年の満州事変が起きた9月18日から、10月に予定される共産党大会までの間に、日中間で再び緊張が高まる可能性がある」と警告する。

※週刊朝日 2012年9月14日号