禁止令が出た7月1日以降、レバ刺しを店で見かけることはなくなった。このままレバ刺しをこよなく愛する「レバサシアン」たちは絶滅していくのだろうか。あの「ツルツル、コリコリ、トロトロ」を追い求めていた週刊朝日は、"隠れレバサシアン"なる存在を確認した――。

「生でもいけるレバーがありますよ」

 隠れレバサシアンの一人に耳打ちされた情報を頼りに、都内のあるホルモン店を訪ねた。

 平日の夕方6時半。こぢんまりした店内は既に満席に近い客入りだった。席に着くと、テーブルに七輪が置かれた。メニューには「カルビ」「ホルモン」などと並んで「牛レバー」の文字があった。

 注文すると間もなく、見慣れた赤黒い切り身がのった皿が出てきた。店員は同時に、ごま油と塩が入った小皿を置いていった。

 テーブルの上には、七輪と生レバー、ごま油と塩。店は「焼いて食べてください」ということなのだろう。だが、体の芯から、あらぬ欲求がこみ上げてくる。

 さて、どうしようか。周りを見渡した。

 すると隣の一人と目が合った。彼のテーブルにも、同じモノが並んでいた。すると、彼は生レバーを箸でつかんで、ごま油と塩の小皿をくぐらせ、口に運んだ。そして、もう一回、私のほうに視線を送った。

 客は喜びを声には出さないのだ。店と客との問にも暗黙の了解があるのか。それとも、感極まって"禁断の味"を口にした喜びを表現できないのか。いずれにせよ、"隠れレバサシアン"は、ひっそりと生息を認め合っていた。

 当然のことだが、こうした隠れレバサシアンの行動を危険視する声は大きい。これまで生で提供されていた牛レバーは、品質管理が行き届いた新鮮なもののみ。勝手な自己判断で生で食べれば、健康へのリスクはこれまで以上に高いから、絶対にお勧めできない。

※週刊朝日 2012年9月14日号