8月23日付の日本経済新聞5面に小さい記事ではあるが「生活保護費『逆転』6都道府県 秋以降も」という記事が掲載された。最低賃金が生活保護費よりも低い地域が秋以降も6都道府県ある。こうした逆転現象に、伝説のディーラーと呼ばれ、投資助言会社「フジマキ・ジャパン」代表を務める藤巻健史氏は、こんな解決策を提案する。

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 貸金がグローバルな市場原理で決まる以上、規制などで人為的に上下させると無理が生じるのだ。逆転現象を解決するための選択肢は「生活保護水準を下げる」しかない。

 といいながら、実は、最低賃金と生活保護費の逆転現象を解消するのに、生活保護水準を下げずに済む解決方法がある。

「さきほど、グローバル化が進んでいる以上、選択肢は生活保護水準を下げるしかないのだ、と言っていたばかりではないか。その舌の根も乾かぬうちに」とおっしゃらないでいただきたい。私はディーラーだからといって得意な二枚舌を使っているわけではないのだ。

 方法は円を安くすることである。最低賃金を上げても円の価値を下げれば、日本人労働者は海外労働者に太刀打ちできる。日本人労働者の最低月給が10万円だとしよう。1ドル=80円なら月給1千ドルの外国人は8万円で雇える。日本人経営者にとって、日本人労働者を雇うほうが外国人労働者よりも高くつく。空洞化が起こり日本人は職を失う。しかし1ドル=160円の円安になれば、月給1千ドルの外国人を雇うには16万円必要となる。日本人の最低月給を12万円に上げても、仕事は海外に行かないのだ。

 労働基準局も労働組合も労働者もなぜ「円安を!」の声を上げないのか、いつも不思議に思っている。人の首を切る代わりに円の価値を切れ!

※週刊朝日 2012年9月14日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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