近年、日本政府は景気回復のため「家電エコポイント」や「エコカー補助金」など税金をばら撒いてきた。ニュースキャスターの辛坊治郎氏は、政治の力で目先の景気を浮上させることしか考えていない政府の施策に疑問を投げかける。

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 政策が今、日本経済の土台を確実に蝕(むしば)み始めているように思う。

 雇用調整助成金で、余剰人員を解雇せずに飼い殺せば、国が従業員の給料を肩代わりしてくれる。また現在、金融円滑化法で中小企業の多くが借金の返済を猶予されている。この制度で一時的に倒産を免れた企業の中には、借金の返済のめどが立たないどころか、延命できたがゆえに新たな借金を抱えるものも多い。このまま制度が終了すれば、投じられた多額の税金は露と消え、金融機関もタダでは済まない。役割の終わった企業が早期に社会から退場して、有為な人材が成長産業に移行すれば、産みの苦しみの後に、豊かな未来が開ける可能性もある。

 しかし、税金を投じて一時的に企業を助け、産業構造の変革を阻害し、時代に合わない会社ばかりが国内にあふれていけば、社会全体が死んでゆく。公共事業で建設業者を延命することも、高齢化した小規模農家に税金をばら撒くことも、長い目で見れば同じ負の効果を持つ。

 今、政治の力で景気を回復させているように見えて、その実、日本経済の土台を腐らせているのではないか。

※週刊朝日 2012年9月7日号