内戦の続くシリアで8月20日、通信社ジャパンプレス所属の山本美香さん(45)が銃撃され死亡した。日本人ジャーナリストを狙い撃ったとも言われる政府軍の残虐さは、シリアの市民たちが日々直面する脅威でもある。砲弾の雨が降る中、5週間の現地取材で目撃した"地獄"をジャーナリストの安田純平氏がリポートする

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 政府軍は昨年3月以降、主要都市の各地区に、数十人から100人超の兵士と数台の戦車を備えた「チェックポイント」を設け、反政府側の摘発を進めてきた。市民は根拠なく拘束されて拷問を加えられるほか、政府軍のスナイパーから無差別に撃たれる危険もある。

 一方、反政府側は「チェックポイント」を襲撃し、排除できた地域に拠点を設け、周辺への拡大を図るという闘争を今年から本格的に始めた。これに対し、政府軍は街ごと破壊するほど徹底した砲爆撃を加える「テロリスト掃討作戦」で反撃している。武装勢力と非武装の市民を区別せず、無差別に爆殺しているのだ。

 私が7月3日から15日間滞在した中部の街ラスタンも、そうした無差別攻撃を受ける街の一つだった。爆音がしない日はなく、着弾が近いため地下に逃げ込むことも何度かあった。

 自由シリア軍によって1月に市内から排除された政府軍は、市の北側の丘の基地から市内へ戦車砲、迫撃砲、ヘリからの爆弾による攻撃を続けている。例えば自由シリア軍の拠点は戦車砲が届かない丘の裏側や地下階にあるが、政府軍は平地の住宅地を狙って砲撃し続ける。武装勢力がいない場所と承知の上で、市民に砲弾を浴びせているのだ。

 7月14日、市内中心部の民家に呼ばれ昼食をとっていると、巨大な太鼓を叩いたような爆発音に続き"ガシャッ"と炸裂音が響いた。いずれも頭を殴られるような轟音。2階建て民家の屋上に上がると、200メートルほど前方から白黒の混ざった煙があがっていた。

 後方で再び爆発音が鳴り、目の前に煙があがって炸裂音が聞こえた。丘の上の政府軍基地からの戦車砲の発射音と、着弾音だ。砲弾の軌道を少し変えるだけで自分のいる場所も木っ端みじんだが、残って撮影を続けた。

 1階へ戻ると、男性も女性も気にする様子もなく食事を続けていた。1階は戦車砲の死角で、迫撃砲にも耐えられる。空爆はどうにもならないが、比較的安全なのは確かだ。だが、私が、「死傷者がいるのでは」と言うと、皆が一様に顔を曇らせた。日々人が死んでいく状況に耐えて生きている彼らに、余計なことを言ってしまった気がした。

※週刊朝日 2012年9月7日号