「熱海殺人事件」「蒲田行進曲」などで知られる、劇作家の故つかこうへい。一人娘の愛原実花さんは、元宝塚歌劇団の雪組の娘役トップスターだが、公演中で父の死に目には会えなかったという。父の思い出を語る。

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 外では怖いイメージだったようですが、家ではとても優しい父でした。私が子どものころから、声を荒らげて怒ったのを見たことがありません。家でよく遊んでくれたし、お風呂にも小学校の高学年まで一緒に入っていました。

 私が出演する舞台は時間の許す限り観にきてくれました。口出しや批評はほとんどされませんでしたが、ラブシーンとかセクシーな衣装で誘惑するようなシーンのときに感想を開いたら、ヘンな顔して「うーん」と言葉を濁すんです。困惑しているのが顔に出てました。自分はあんなに過激なシーンを演出していたのに。(笑い)

 宝塚を辞めようと思ったのは、入団7年目でした。そのころには父の病(肺がん)がかなり進んでいて、退団公演のけいこ中に容体が悪化したという連絡が入りました。あわててお見舞いに行こうとすると、「お前には仕事があるんだから絶対来るな」と言うんです。そして「役者は親の死に目に会えないものなんだよ」と言われました。

 結局、退団公演の最中に父は亡くなりました。本当に死に目に会えなかった。その日、舞台に上がる直前に母から知らせを受けたんですが、なぜか動揺はしませんでした。

 父にやっと会えたのは、遺骨になったあとでした。でも、さみしくないんです。父の肉体はたしかになくなりましたが、うまく言えないけど、父がより身近になった気さえするんです。

※週刊朝日 2012年8月31日号