なぜ、かくも簡単に"冤罪"が生まれてしまうのか。昨年10月、静岡県警が立件した背任事件で、逮捕者全員が不起訴処分となる"大失態"があった。その一人、元不動産業のH氏は「県警が事件を捏造した」と、近く国家賠償請求訴訟を起こす方針だ。

 実は、この事件にはある"有名人"がかかわっている。2001年の東京商銀不正融資事件で実刑判決を受けるなど多くの経済事件で名前が浮上し、大物美人演歌歌手のタニマチとも名指しされたブローカーA氏。彼が、不動産取引を巡る背任事件としてH氏らを県警に告訴したのだ。A氏の描いた筋書きに県警が乗っかってしまったのが、そもそもの間違いだった。

 事件の概要はちょっと複雑だが、簡単にいえば、A氏が1億円の借金の担保に入れた土地を、金を貸したT氏と共謀してH氏らが勝手に売ってしまった――という話だ。A氏の逆恨みか、それともほかの理由があったのかわからないが、当時、県警は70カ所もの関係先を家宅捜索し、H氏も新聞各紙で実名で報じられた。

 H氏の訴訟代理人、岩井信弁護士が事件の顛末をこう解説する。

「県警が告訴内容の裏づけを取らず、無理やり事件化した明らかな不当逮捕です。Hさんは長年、どこで何をしたかという詳細な業務日誌をつけていた。それが逮捕後に押収され、県警が描いた筋書きの日時や場所にHさんが登場し得ないことが証明されたのです。そも

 そもHさんは、A氏とT氏の金の貸し借りに関与すらしていません」

 H氏が悔しそうに語る。

「犯人として実名で報道されて築いてきた信用を失い、人生をめちゃくちゃにされました。不起訴処分になっても、みんなが無実だと信じてくれるわけではありません。訴訟によって、名誉を回復していく以外、手段がないのです」

 真実を軽んじた県警の罪は、あまりに重い。

※週刊朝日 2012年8月17・24日号