野村グループのトップ、渡部賢一CEOが7月末に辞任することを電撃発表した。これは、佐渡賢一率いる証券取引等監視委員会(SESC)との闘いに、ガリバー・野村が敗れたことを意味する。"2人の賢一の100日戦争"。週刊朝日だけが知る真相を報告する。

 かたや座禅、かたや登山。"2人の賢一"は好対照な趣味を持つ。

 野村が絡む増資インサイダー事件が相次ぎ、2人の賢一の闘いが始まった。

 今年3月、旧中央三井アセット信託銀行に課徴金勧告を出した際、佐渡は「情報漏洩は野村から。組織ぐるみで悪質」というメッセージを発した。しかし、渡部は「営業社員の個人の問題だ」と抵抗。役員の一人は「SESCを訴えるぞ」とまで息巻いた。

 4月上旬、その話を聞いた佐渡は激怒し、周囲にこう怒鳴った。

「これは戦争だ。野村のワン・ツーの首をとる」

 登山の男は有言実行した。SESCは4月、野村への特別検査に着手する。だが渡部は6月未、担当役員を退任させ、自身も減俸50%とすることを発表した。7月上旬、野村首脳は金融庁の元長官にこう話した。

「これで幕引きです」

 しかし、特別検査は終わる気配がない。佐渡をよく知る社会部記者は言う。

「佐渡さんは、特捜部丸出しの人。ストーリーを決めたら、一歩も引かない」

 座禅の末、渡部が結論を出したのは7月20日のことだった。金融庁首脳に「トップの首を差し出す」と伝言し、佐渡は「特別検査の終了」を宣言した。

 佐渡の強引にも見える捜査の前に、瞑想にふけるだけで現場を掌握しきれていなかった渡部はもはや相手ではなかった。

※週刊朝日 2012年8月10日号