6月の株主総会を経てトップに就任した東電の下河辺和彦会長は、7月23日に政府の事故調査委貝会の最終報告書が出た後にも、「テレビ会議」の映像を公開する方針を明らかにした。

 遅まきながら、それまで社員らの「プライバシー」を理由にかたくなに公開を拒んできた姿勢を、ようやく転換するというのだ。

 東電内のテレビ会議システムは、事故のあった昨年3月中、東電本店や福島第一、第二の免震棟などを結んでいた。現場を指揮する吉田昌郎・前所長と本店幹部らが、時々刻々、変化する原子炉の状況をめぐって交わした、生々しいやりとりが収められている。

 ところが公開には、おかしな条件がつきそうなのだ。とりあえずのところ、公開は報道機関に限定。基本的には映像や音声を修正せずに閲覧する形をとるが、放送用には要約版を別につくり、そこでは「プライバシー」に配慮するため、モザイク処理などの加工がされる見通しだという。

 さらに映像をめぐっては不可思議なことがある。

 昨年3月15日早朝、菅直人前首相自ら東電本店に乗り込み、清水正孝元社長ら幹部を厳しく叱責したとされる場面の音声が残っていない、とされる点だ。

 肝心な部分の音声だけが消えている。そんな不自然なことが果たしてあるのか。この「欠落」にこそ、東電が映像の公開を渋るカギがあるとみるのは本誌でおなじみ、福島第一原発(フクイチ)最高幹部である。

「本店がビデオを見せたくない理由はいくつかあるようです。そのひとつが、国会事故調などでも問題になった、本店が一時、全面撤退を検討したとされる問題です。清水元社長が頼りない受け答えをしている映像が一部、残っているという話がある。これでは官邸が誤解するのも仕方がない内容だと言います。菅前総理の過剰介入が批判されていますが、本店だって批判されてもやむなしというところがビデオにはあるようです。公開すると、事故はあくまで津波によって起き、その対応が遅れたのは官邸の責任だという本店のストーリーに合致しなくなるからだとも聞いています」

※週刊朝日 2012年8月3日号