慢性心不全の生存率は低いといわれる。血液の流れが悪くなることによって脳梗塞などを誘発し、不整脈が引き金となって心臓突然死を起こす場合もある。だが、それらを防ぐ植え込み型の除細動機能が付いたぺースメーカーCRT-PやCRT-Dが登場し、着実に広がりつつある。このCRT-PやCRT-Dについて、心不全外来主任として日々患者と接している循環器専門医である北里大学医学部循環器内科学講師の猪又孝元医師に聞いた。

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 野球にたとえると、CRT-PやCRT-Dは打率7割弱、強打者の4番バッターです。しかし、下手投げの投手にはまったく歯が立たない。つまり、万能ではないのです。また、確実に得点するには、多様な選手で打順を組む必要があります。治療も強打者だけでは成立しないのです。

 要は「機器を使って心室の動きを同期させる心臓再同期療法」(CRT)をどう使いこなせるか、つまり、治療全体をどう考えるのかにつながってきます。

 CRT-PやCRT-Dを植え込むことは患者さんと長く付き合うことも意味します。医療側にも、その覚悟と態勢づくりが求められてくるのです。

 心臓電気生理学など複数の専門の医師や心電図・超音波診断装置(エコー)を操る臨床検査技師、慢性心不全看護認定看護師や心臓理学療法士など。その中で重要なのが全体を束ねるコンダクター、指揮者となる心不全を熟知した医師の存在です。

 CRTでいえば同期不全で心室の動きに互い違いがあった場合、電気的にリズムを同期させればそれですむのか、動かすポンプ自体は壊れていないのか。総合的に診て、経験を積んだ医師の高度な見極めが必要になります。

※週刊朝日 2012年7月13日号