かつて「伝説のトレーダー」と呼ばれ、現在は投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める藤巻健史氏。運転免許の更新に行き、「社会全体の利益」について考えたという。

*  *  *

 今回、日本の免許更新で出会ったおじいちゃんには考えさせられることが多かった。視力の検査で私の前にいたおじいちゃんは80歳をゆうに超えていると思うのだが、検査官の質問が、補聴器をつけていても聞こえないようだった。なんとか、「○のどの部分があいているか?」の説明を理解した後も、一つの回答を出すのに30秒以上かかるのだ。

 お医者様ではない私が、軽率なことを言ってはいけないのだが、聴力とか視力の問題ではなく反応能力が、かなり落ちているのではないか?と思った。しかもバスなどが対象の大型2種の免許だと検査官が言っている。検査官からなんとか試験を通してあげようという雰囲気を感じて、「この人の免許が更新されて運転されたら、怖くて道を歩けないよな」と、おせっかいにも抗議しようとさえ思ったが、さすがに上司が出てきて、「手紙を書きましたから、運転免許試験場に行って再検査をしてください」と説明していた。適切だろう。

 しかし、試験場に行ったとしても、この方には申し訳ないが、免許を再交付してはいけない、と思う。

 人権とか不平等とかいう問題ではなく、個人の不利益と社会全体の不利益との比較の問題だ。事故を起こしたら、被害者や被害者の家族、そして当人にも悲惨な人生が待っているのだ。5月12日にも84歳の男性が新東名高速道路を18キロ逆走したとニュースになったが、静岡県警の高速道路交通警察隊は「本人や家族に免許を返納するよう説得したい」そうで、返納を法的には強要できないようだ。そうである以上、ある一定の年齢以上の人には、いまより、反射能力などの運動能力試験を、そうとう厳格に課すべきだ。

 

週刊朝日

 2012年7月6日号

著者プロフィールを見る
藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

藤巻健史の記事一覧はこちら