商品やサービスが激しい価格競争を繰り広げ、裏では人件費も値崩れするというデフレ状況にある日本。津田塾大の萱野稔人(かやの・としひと)准教授はそうしたデフレの影響を、大学の教え子が就職難に直面している姿をみて感じるという。そして学生たちはそんな現状に「不公平感を抱いている」と萱野氏は言う。

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 日本企業の多くは新興国との低価格競争に巻き込まれているので、資源の高騰を価格に転嫁することができず、人件費を削るしかなくなっている。そうした中で、いまの学生は採用数が減らされただけでなく、入社後も訓練の機会を十分に与えられずにいます。

 当然ながら、学生たちはこのことに不公平感を抱いています。景気のいい時代を謳歌(おうか)した世代を、なぜ自分たちが支えなければならないのか。「高齢者向けの社会保障はもっと削ったほうがいい」という学生は少なからずいますよ。

 ただ、景気への影響を考えると、この指摘はあながち誤りではない。高齢者は将来のリスクに備え、年金などを消費に回さず預金します。金融機関は集まった資金で国債を買い、国はそれを再び高齢者福祉に回す。国と高齢者、金融機関の3者の間でお金が回るだけで、政府が高齢者福祉を充実させても消費は増えず、蚊帳の外に置かれた現役世代は、将来のツケだけを背負わされるからです。

 この点ばかり強調すると「姥(うば)捨て山主義者」と言われてしまいますが、高齢者への福祉サービスは現物支給にするとか、福祉についてはもう少し考えたほうがいいと思います。

※週刊朝日 2012年7月6日号