女優の高峰秀子さんのファンであり、親交もあったという画家の安野光雅氏。安野氏は一昨年末に亡くなった高峰さんの若かりし頃の出演映画と、ある人物の芸名の由来について、こう話す。

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 わたしの頭の中には二人の高峰秀子がいたし、今もいる。

 その一人は、たとえば映画「馬」に出てくる少女であり、「二十四の瞳」の大石先生でもある。

 あと一人は、庭に出た「ふきのとう」の佃煮をくれるとか、夫の松山善三も意見は同じところだろうが、「口うるさい」ひとである。

「馬」はわたしがものごころついた戦前の映画で、馬を育てたもんぺ姿の少女が、軍馬になって出ていく馬と悲しい別れをする物語だった。

 これは山本嘉次郎監督の作品で、山形県最上町でロケが行われたという。全くの余談だし、笑い話に聞こえたら困るが、わたしはケーシー高峰のファンでもあるから、ここに書くことを(同じ病にかかった者として)許してもらいたいが、その馬のロケ現場に日参した少年が門脇貞夫といい、初恋の病にかかってしまったらしい。だから、成人して芸名を「ケーシー高峰」としたという。

※週刊朝日 2012年6月22日号