これまで男の世界と考えられていた林業界に、「林業女子」と呼ばれる女性が増えている。男衆も認める技術力で、林業の未来を切り開く。

 高知市から車で北に約40キロ。四国の中心付近の山あいに、本山という町がある。ここに男性も驚く技術力で"山仕事"をこなす「林業女子」と呼ばれる女性たちがいる。

 野尻萌生(めぐみ)さん(25)がチェーンソーのエンジンをかけると、耳をつんざく轟音が山全体に響いた。刃の回転が十分であることを確認すると、真剣な眼差しで直径20センチ、高さ約15メートルの杉の木に両側から切り込みを入れていく。ほどなくして「バキバキ」という音とともに木が一気に倒れ落ちた。周囲の木を傷つけることなく、ほぼ計算どおりの方向に木を倒していく。

 次に、時久(ときひさ)恵さん(28)が重機を運転して切り株を取り除き、作業道をつくりはじめた。作業道は、大雨時に土砂流出や山腹崩壊の原因になるため、最も難しい部類の仕事だ。だが、時久さんは一人で、100メートル以上の作業道をわずか2週間でつくった。その仕事ぶりは、プロの林業家もうならせるほどだ。

 2人の林業歴は約2年。きっかけは、小規模の林業家や間伐ボランティアが集まって高知県の森林整備を手がけるNPO法人「土佐の森・救援隊」の活動だった。同隊が運営する「自伐林家養成塾」を受講して技術を学び、林業をはじめた。同隊に所属する約60人のうち10人が女性で、今後も増える見込みだという。

 木材価格の低迷で苦境にあえぐ林業界に、若い感性が新しい風を吹き込んでいる。

※週刊朝日 2012年6月15日号