流暢な日本語を操る好人物として知られていた、中国大使館の李春光・1等書記官(45)のスパイ疑惑。全容はまだ見えてこないが、日本の政治家を手玉に取った「対中ビジネス」や、筒井信隆農水副大臣による機密漏洩疑惑などが浮上している。(【1】から続く)

 一方でこの事件に関して、

「今回の一件は、いわば"なんちゃってスパイ事件"ですよ」

 と指摘するのは、中国問題に詳しいジャーナリストの富坂聰氏だ。

「本名で個人口座を作ったり、有料で講演もやっていて、ネットで検索すればすぐに李書記官の名前が出てくる。そんなスパイいませんよ。中国という国が、バレバレの違法行為で危ない橋を渡らせるわけがない。李書記官が表で日本の政治家と接触したこと自体は、国益を代表して来ている外交官の仕事の範囲内です。何らかの利権にあやかろうとしたというのが、正しい見方ではないでしょうか」

 李書記官を知る経済官僚も首をかしげる。

「彼はもともと本国で弁護士登録をし、事務所を開いていた普通の民間人です。日本通ということで選抜されて外交官になりましたが、経済担当で、軍事情報や機密情報にはまったく精通していなかった。子煩悩で、お子さんを日本に連れてきていたし、そんなに危ないことをするとは思えないのですが......」

 公安警察に詳しいジャーナリストの青木理氏も、こう指摘する。

「彼はスパイでもなんでもない。あえて言うなら、そこそこ優秀な外交官だと思いますよ。外交官は現地の要人、経済担当だったら財界人、政治担当だったら政治家らに人脈を作るもの。当然、そこで情報を得て、自国の政治課題や経済課題をいい方向に運ぶために交渉するのが仕事です。ただ、日本の公安部は中国に対し、『お前らが何をやっているかわかっているんだぞ』というメッセージを送ると同時に、めったに注目されない自分たちの存在意義を示そうとした。そういう公安部的な論理が働いている気がします」

※週刊朝日 2012年6月15日号