世界各地を訪ね歩いて、野生の動物と触れ合い、それを茶の間に伝えた畑正憲さん。人気番組「ムツゴロウのゆかいな仲間たち」は平均視聴率20%を維持しながら、21年間も続いた。畑さんが動物にのめりこんだきっかけは、一匹の犬「グル」だったという。

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 僕は生化学や生理学、遺伝学など、当時の生物学の最先端を身につけていましたけど、実物の動物を丸ごと扱ったことはなくて、犬の種類も見分けられない。それで、ケージに手を差し入れたときに、最初に顔を擦り付けてきたのが、グルだったんですよ。

 自分でも尋常ではないと思うほどのめりこみましてね。庭に大きな犬舎を建てて、そこで一緒に寝泊まりしました。夜、くっついて横になっていると、グルの血圧や脈拍の変化が直に響いてくる。自分が犬になった気がして、そうしたら、グルが愛おしくて愛おしくて。「愛しているよ」なんて、家族にも言ったことのない言葉が、自然に口をついて出てきました。

 僕は、グルの体のなかにもホルモンが分泌されるのを感知しました。そこには、僕を夢中にさせる真実があった。アメーバに魅せられて以来、ずっと生物と付き合ってきて、ようやく自分の生きる場所へたどり着いたような感覚がありました。

※週刊朝日 2012年6月8日号