テレビでもおなじみの生物学者である、池田清彦・早稲田大学教授。氏は、長年大相撲ファンだというが、「唯我独尊の相撲協会に未来はない」と持論を展開する。

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 大相撲を熱心に見るようになったのは小学生の低学年の頃だから、ファン歴はとうに半世紀を超えた。

 何で相撲の話をしたかというと、最近の勝負の判定はどうもいけませんねと言いたいからだ。この原稿を書いている現在、大相撲夏場所はまだ中日前だが、私が見た限り、二日目の日馬富士対臥牙丸と三日目の琴欧洲対豊響の対戦は、いずれもきわどい勝負であったにもかかわらず物言いが付かなかった。

 私見によれば、どちらも行司差し違えで、負けたとされた力士が勝っていたと思う。

 三日目の琴欧洲と豊響の一戦は完全に琴欧洲が勝っていた。軍配が上がった後で、琴欧洲がなぜ物言いが付かないんだといった憮然とした表情で土俵の上に立ち尽くしていたのもむべなるかなと思った。

 取組の後、日本相撲協会には苦情の電話が殺到したというが、鏡山審判部長は「ビデオはビデオ、審判部は審判部」とうそぶいたという。勝負の判定に絶対はないが、五人も勝負審判がいて、誰も勝負を見ていなかったのかしら。相撲協会は公益財団法人になるべく改革を進めていると聞くが、ファンにとって一番大事な勝敗の判定方法をあいまいにしたままでは、ファンの相撲離れは止まらないと思う。現に私は琴欧洲と豊響戦の後、興ざめして相撲を見るのを止めてしまった。

 行司の軍配は絶対であるとするのも一案である。誤審は免れないがそれはそれですっきりする。しかし審判制度を続けるならば、プロの審判委員を養成して、ビデオ室からクレームを付けるようにしたらよいと思う。今の審判委員は年寄が片手間にやっているだけで技倆が足りない。審判委員は元力士である必要は全くないわけで、唯我独尊でやっているうちは相撲協会に未来はないな。

※週刊朝日 2012年6月8日号