インドで唯一、ウラン鉱山がある小さな村。危険を知らされなかった村民たちの周囲では"異変"が起きていた。フォトジャーナリストの木村肇氏が取材した。

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 ジャールカンド州ジャドゥゴダ。インド東部の都市カルカッタから西に300キロ。インドで唯一のウラン鉱山がある村だ。稼働中の19基、建設中の8基の原発を抱えるインドの核開発の基礎を支えてきた土地でもある(11年1月時点)。人口の28%がアンタッチャブル(カースト制度からも外れ、激しい差別をうけている人々)にすらなれない先住民とされ、自給自足の生活を送る者も多い。

 いまだ手つかずの自然と野生動物が残るジャドゥゴダに、インド国営のウラン公社、通称UCIL(Uranium Corporation of India Ltd.)がやって来たのは1962年だ。その5年後には鉱山が本格稼働を開始。74年には、インドで初めて核実験が行われた。

 日本がジャドゥゴダの調査を始めたのは2001年のこと。京大原子炉実験所の小出裕章氏がフィールドワークを行った。02年の調査報告書によると、当時稼働していたウラン鉱山は三つ。工場でウランを精製する際に生じる鉱滓(こうし=鉱石から金属を製錬する際などに生じる非金属性の不純物)を廃棄するための鉱滓池(テーリングダム)は二つあり、三つ目を建設中だった。その周辺半径5キロ内に15の村が存在し、約3万人が生活を営んでいる。

 08年、IDPD(India Doctors for Peace and Development、平和と発展をめざすインド医師連盟)はダム周辺半径2.5キロの住民(3690人)を対象にした調査報告書「Black magic」を発表した。それによると、46%の住民がUCILで働いており、そのうちの約3分の2が鉱夫だった。同地区の先天性異常者率は4.42%(163人)で、30縲鰀35キロ離れている対象地区(5077人)に比べて約2倍高い。また、半径1キロ以内の七つの村では、47%の女性が月経不順で、18%が5年以内に流産か死産を経験しているという結果も出ている。

「1人目の子は流産したのよ」

 ダムから約2.5キロの村に住むドニヤン・オラムさんが目を伏せながら、ぽつりと語った。彼女には26歳の息子と24歳になる娘がいるが、2人とも言語障害と下半身不随を患っている。

※週刊朝日 2012年6月8日号