欧州全体に波及したギリシャの財政危機。いよいよギリシャのユーロ離脱が真剣味を帯びてきた気配だ。しかし「万が一、ギリシャが離脱すると危機が連鎖し、通貨ユーロは消滅するかもしれない。だからEUはギリシャを離脱させないよう援助を続けるのではないか?」というのが多数派の意見だと、投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める藤巻健史氏は言う。そしてその一方で、「別のシナリオ」について次のように指摘する。

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 ギリシャが離脱すると、危機が他国へ連鎖するのだろうか? へそ曲がりの私としては、別のシナリオを考えてしまう。

 6月の再選挙でギリシャの緊縮財政派が敗れれば、ギリシャはEUと合意した財政再建策を放棄するだろう。EUやIMF(国際通貨基金)からの資金援助はギリシャ自身の財政再建が前提だから、財政支援は打ち切られ、ギリシャ政府は資金不足となり政府機能はマヒしてしまう。

 資金不足で海外からの債務も不履行になる結果、ギリシャはユーロにとどまり得ない。それによって旧通貨ドラクマが復活するわけだが、価値は急落だろう。すでに富裕層の中にはギリシャの金融機関から資金を引き出し、ユーロ建てのドイツ国債を購入したりして、ドラクマの復活・急落に備えている人もいると聞く。

 実際に復活すれば、ドラクマ売りとユーロ・ドル買いは加速するだろう。国力が弱った国の通貨など誰も欲しくないからだ。金融機関からの資金流出も続き、彼の国の金融機関は存立の危機に追いやられる。

 ドラクマの価値が急落することで輸入の食料や石油は暴騰し、満足な日常生活は送れなくなる。資金不足で政府機能もストップするので、町には警官もゴミ収集車も消防車もいなくなる。数が多すぎると言われる公務員への給料支払いは止まる。治安が悪化するから最大の産業、観光業も大打撃だ。こうしてギリシャ国民はユーロ離脱を契機に最貧国へと転がり落ちていく。

※週刊朝日 2012年6月1日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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