5月18日、エリザベス女王の即位60周年を祝う午餐(ごさん・昼食)会が開かれたロンドン郊外のウィンザー城。 二十数ヵ国の君主らに交じって、天皇、皇后両陛下の姿があった。

 今回の訪英を「強く望んでおられた」(宮内庁関係者)という天皇陛下は、 3カ月前に受けた心臓バイパス手術の影響を感じさせない足取りで、出迎えた女王に歩み寄ると、笑顔でしっかりと握手を交わした。

 天皇陛下が初めて英国を訪問したのは皇太子時代の1953年。 女王の戴冠式に出席したときだ。

 53年という年は、 第2次世界大戦に敗れた日本が国際社会に復帰した翌年で、日本や日本人を見る世界の目はまだまだ厳しかった。

 19歳の青年だった明仁親王にとっては、 そのあと長い友情を育むことになる各国の王族との出会いの場であると同時に、 英国民の冷たい視線にさらされた場でもあったろう。

 たとえば、明仁親王が英国に到着した日、英国の大衆紙デイリー・エクスプレスは、「日本の皇太子を戴冠式に出席させるべきか」と読者に質問したところ、反対が68%にのぼったと報じている。

 朝日新聞の宮内庁担当記者だった石井勤さん(現・朝日カルチャーセンター社長)は言う。

「天皇陛下は批判の声にもしっかりと耳を傾け、 状況をあるがままに受け止めることが自分の役割だと感じている方です。 日本や皇室に対して難しい目が外にある、 と天皇陛下が初めて肌で感じたであろうこの時の経験は、 天皇陛下の象徴天皇像を形作るうえでの出発点となったはずです」

※週刊朝日 2012年6月1日号