世界的建築家の安藤忠雄氏。だが、代表作の中には強い批判を浴びたものもあるという。安藤氏はその建造物について次のように話す。

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 建築を志してからずっと、狭い日本のなかで狭いなりの快適さ、身の丈にあった豊かさを考えるべきではないかと思ってきた。住宅が密集し、快適とはいえない日本の住環境を改善したいという不満や怒りがエネルギーの源になっていました。それにクライアントの要望に応えて機能を満たすだけではつまらない家しかできない。自分がこうと思ったものは、相手が根負けするまで我を通しました。
 転機となったのは35歳で手がけた「住吉の長屋」です。コンクリート打ちっ放しの箱のような家です。ただでさえ狭い住居スペースの真ん中に中庭をつくり、「トイレに行くのに傘を差していかなきゃならないのか」とさんざん批判もされました。しかし私は、自然の一部に生活があるべきであり、それこそが住まいの本質だと考えて、小さな敷地に自然を取り込む方法を突き詰めたのです。安易な便利さに流されない、「住む人が闘う」住まい。この住宅が私の建築の原点になりました。

※週刊朝日 2012年5月18日号