首相在任中に浜岡原発を停止させ、原発依存率を53%まで増やすという「エネルギー基本計画」を白紙にした菅直人氏。大飯原発再開発問題が湧く今、その議論の内容に「曖昧で不十分だ」と危機感を募らせる。

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――野田政権が大飯原発の再稼働を「妥当」と判断した。どう思うか。
 首相在任中の昨年5月、浜岡原発を止めた。その1カ月後、玄海原発の再稼働を決めるとき、「原子力安全・保安院が再稼働を認めたので許可してもらいたい」と海江田万里経済相(当時)が言ってきた。「保安院だけが判断するのはおかしい。原子力安全委員会の意見は聴いたのか?」と聞くと、海江田大臣と事務方は「法律では再稼働を決めるのは保安院だ」と言うので、「それはおかしいんじゃないの。原発事故を止められなかった大きな責任は保安院にあった。そこが再稼働を決めて国民が納得するのか」と従来の法でやることに、待ったをかけた。
 それで、【1】ストレステスト(耐性評価)の実施【2】原子力安全委員会も判断に関与させる【3】地元の総意を聞いた上で首相と関係3閣僚が判断する、という以前より厳しいルールを決めた。野田内閣は基本的にこのルールに則って再稼働の手続きを進めているが、議論の中身は曖昧で不十分だ。

――どこが曖昧なのか。
 まず原子力安全委員会の態度だ。斑目(春樹)委員長は「ストレステストの1次評価だけでは不十分」と言った。彼も、不十分だと考えるなら「こうしろ、ああしろ」と言えばいいのに、「不十分だけど、判断は政府に任せる」とハッキリしないことを言いだした。安全委員会が大飯にOKを出したのか否か、実は曖昧だ。
 もう一つは「電力が足らない」と主張する供給サイド、電力会社側の意見だ。3・11以降、企業は自家発電や節電などの努力をしてきた。それでも電力は本当に足りないのか。それとも震災前の猛暑のときのデータをそのまま当てはめて「足りない」と言っているのか、極めて曖昧だ。私が首相のとき、経済省は結論を出せるデータを持ってこなかった。今回も同じやり方を事務方がしているのではないかと懸念している。

週刊朝日 2011年5月4・11日合併号