「遺産分割協議書」って知っていますか? 相続人が合意した遺産の分け方を記した用紙のこと。この協議書、実際はB4サイズ1枚のあっさりしたもの。しかし、「この1枚ができるまでに10カ月にわたる苦悩を体験した」とライターの朝山実氏は言います。父が亡くなってからもめにもめた協議の過程を、本人がつづる。

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 昨年5月、父の四十九日の法要を終え、お坊さんが帰った後のこと。阪神大震災後に父が建てた、だだっ広い家のリビングに、きょうだい4人が集まった。
 恥ずかしい話だが、生前の父と兄は、農地をつぶして共有名義で建てた店舗の家賃収入などを巡り、互いに訴訟までし合う犬猿の仲だった。
 わが家の場合は、父の緊急入院から亡くなるまで、預金や株券は私が管理していた。兄にはその総額を正直に伝えたのだが、納得してもらえなかった。
 赤十字などに毎年数百万円を寄付してきた父は生前、株の売買で「1億もうかった」などと自慢。半面、バブル崩壊後の大損には口を閉ざしていたからだろう。
「もっとあるやろ」
 こう言って私をにらみつけてきた兄の姿に、子どものころの面影はなかった。
『必ずもめる相続の話 失敗しない相続と税対策』などの著書があり、相続案件を数多く手がけている税理士の福田真弓さんいわく、相続税は亡くなってから10カ月以内に納めなければならないので、これが一つの区切りとなるという。
 父の遺産は、農地だった近くの土地に建てたまま最後まで住まなかった新居と株券、預金などだった。合算すると、兄が「お支払い頂きたい」と主張していた総額に近かった。
 それでも、わが家の"争続"にけりがつくまでには10カ月かかった。福田さんが"区切り"と指摘する申告期限が迫る中で、私が、
「税務署には未分類(相続ができないまま)で申告するから、各人自腹で相続税は負担して」
 と通告したことがきっかけになった。
 私が依頼した税理士さんの計算では、きょうだい4人で総額1600万円を収める必要があった。均等に割れば1人400万円。おいそれと用意できる額ではない。そのリミットが迫る中で、兄は当初の要求を取り下げ、遺産総額の半分ほどの価値を占める株券を相続することになった。残りの預金は兄以外3人で分割し、父が建てた家は私が継いだ。
 その内容をまとめたのが「遺産分割協議書」なのである。

週刊朝日 2012年4月20日