テレビ番組での「おいしゅうございます」でお馴染みの岸朝子さん。料理記者歴57年、88歳の今も現役を続けている。岸さんが、料理記者への道を歩み始めたのは主婦の友社の「料理の好きな家庭婦人を求む」という記者募集がきっかけだった。このとき、岸さんには9歳、4歳、1歳半の3人の娘に加えて、おなかには妊娠7カ月の子どもが宿っていた。31歳の初春だった当時を岸さんが振り返る。

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 書類選考に通って、筆記の2次試験は200人くらい集まっていたかな。面接で、「出産のあと育児は大丈夫ですか」と聞かれましたが、「慣れております」と答えて、無事通過。3次試験は、決められたテーマで取材して原稿を書いたり、実際に買い物をして料理をしたりと、6日間みっちり実地試験をやりました。交通費と日当が出たのはありがたかったですね。

 結局、合格者8人に入って、入社の手続きに行きました。それで初めて、毎日出社すると知ったんですよ。でも、ここでも「なんくるないさ(なんとかなるさ)」。4月1日から出社する気でした。ところが、私は産後の8月でいいという。産休制度を知らなくて、「4月から出る」と言い張りました。このとき、雑誌「主婦の友」の編集長が、「自分のお産を記者の目で見てらっしゃい」とおっしゃったのが、とても印象に残っています。

※週刊朝日 2012年4月13日号