90年代、次々とミリオンヒットを送り出し、一時代をつくった音楽プロデューサー・小室哲哉氏が、作家・林真理子との対談で、現在のダンスミュージックシーンを語った。

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小室 今、本当のヒット曲ってなかなか生まれないですよね。宣伝をして、ファンがいて、楽曲はファンクラブの会報みたいなものです。そうじゃなくて、僕の手で将来民謡になるような曲ができたときに、それを誰かが理論的にひもといてくれたらいいなと思いますね。

林 それは古典になるという意味ですか。

小室 日本でいちばん大ヒットしたダンスミュージックは、「ええじゃないか」だと思うんです。

林 ああ、江戸末期にみんなが「♪ええじゃないか、ええじゃないか」と歌いながら踊り狂ったあれですね。

小室 ワンフレーズなんですけど、自然と踊れちゃうという。今の若い人もクラブとかで踊ってるんですけど、ダンスをしたいというよりは、発散したいというイメージなんでしょうね。だから似てますね、「ええじゃないか」の時代と。

林 小室さんがおつくりになった安室ちゃんのいくつかの曲って、ダンスミュージックとしてずっと歌い継がれると思いますけどね。

小室 まさに僭越ながらというか、偉そうに言ってしまうと、モーツァルトだろうとベートーベンだろうと、せいぜい200曲か300曲か400曲で、僕は千何百曲とつくっているんですけど、代表曲というと数曲ですよね。3曲から5曲、みんなが知っている曲があればいいかなと思っていますが、今日もまだ音楽づくりをやめたくないと思っているのは、その代表曲のいちばん上になる曲、最初になる曲を書きたいという気持ちがあるからなんです。

※週刊朝日 2012年4月6日号